2020.0226お手入れで肯定感
私が学生だった頃、野球のイチロー選手は大活躍していた。
彼は一流ながらも仕事道具の手入れを大切にしており、それを見て私も仕事道具は大事にしなきゃいけないと思ったものだ。
私にとっての仕事道具といえば、筆であろうか。
筆の手入れ。そういうのを学ぶ場所が大学だと思うのだが、たまたま私は学ばなかった。
私の学んでいた多摩美術大学の絵画課油絵専攻というのは、「グループ1:具象」「グループ2:抽象」「グループ3:現代アート」と別れている。
(以下、愛称であるグル1、グル2、、と略す。グルイチ、グルニと読む)
きっとグル1やグル2に少しでも在籍していたら、学んでいたのだと思う。
大学を爆破すらしたことのあるアーティスト、堀 浩哉氏率いる「グル3」になんと4年間きっちり所属(多分珍しい)した私は絵の具のあれこれなんてのを大学で学んでいない。
「表現方法は自分で考えなさい。ただし魂に素直であれ」
「限られた絵のかき方なんてのをわざわざ教えるのはどうなのか。自分で色々試して最適なものを見つけなさい。」
「もっと自分らしさが出るための考え方を掘り下げる為に私と話しなさい」
そんな教授が多く、グルサンではパフォーマンスや映像、インスタレーションが盛んだった。
あまり大学生活に馴染めなかったのもあり、私は決して出席率の良い学生ではなかったけれど、グル3の雰囲気やものの考え方がとても好きだ。
私はインスタレーションもやるが、絵も描く。
未だにインスタレーションの私と、海外の私が混じり合わない。
インスタレーションは社会に関わる手段で、絵画はもっと内面や人間のあり方に落ち込んでいく方法というか。
絵を描いて、ふっと浮かんできた疑問をインスタレーションにすることはあるが、全ては絵からだ。
心根はペインターなのかもしれない。
そんなわけで、やっぱり仕事道具は油絵の筆。
教えてもらわないで、色々試した結果、ここ10年行っている手入れは下記の通り。
使用後は毎日ブラシクリーナーと石鹸洗い。
週に1回(だいたい週末)に全ての筆にリンスをつけすすぎ、綺麗なふきんで水分をとり、横にして乾かす。
筆を石鹸で洗っている時、考える。
きちんと描けているだろうか。
惰性やクセに流されていないか。
そもそもこの絵は誰が必要としているのだろうか。
私は世間の役に立っているのだろうか。
売れっ子アーティストなんてものじゃないから、どうしても自分に対して卑屈になる。
いつだって不安だ。
でも、リンスをしている時、たった週に1度。
筆が美しくしなやかさを取り戻すなるたびに、なんでだかさっぱりわからないけれど、小さな肯定感が生まれてくる。
一緒に頑張るしかないじゃん、と筆に言われているような。
「誰にでも通用する正解はない。自分にとっての正解を模索しなさい」と言ってくれた堀先生、ありがとう。
私流の筆の手入れ方法に、私はギリギリ救われているのかもしれません。